建築士事務所-計画工房 辿のつぶやきと家づくりサポート

人間は進化しているのか

2001.01.04 朝日夕刊
東京大学助教授 佐倉 統(おさむ)

ぼくたちは、今も進化しているのだろうか?これからも進化していくのだろうか?
もし進化しているとすれば、どこに向かっていくのだろうか?
人間の進化とは、実は技術の進化に他ならない。太古の祖先が道具を使い、家畜を飼い、土地を耕し、文字を発明し、やがて乗り物を作り、電気を自由に使いこなし、コンピューターを生み出す。これらの発明によって、人間の進化は遺伝子だけによる生物の進化とは、桁違いのスピードと情報量を持つことになった。
そのことを、たったワンシーンで雄弁に語ってしまったのが、映画「2001年宇宙の旅」である。400万年前??の人類の祖先は動物を狩ることを覚え、その骨を道具にしてさらなる殺戮を繰り広げていく。動物をブチのめす快感に打ち震えながら、彼が勝利の雄叫びと共に天空に放り上げた獲物の骨ー。一瞬の後、その骨が、宇宙船に切り替わる。400万年という時間の流れは、道具を、そして人間をここまで進化させた。SFの巨匠アーサー・クラークと、映像界の鬼才スタンリー・キューブリックの、少なくとも見る者にとっては、なんと幸福な出会いだったことか。
道具を使うことで、人間は自分たちが変わる必要が無くなった。自分たちに都合のいいように環境を変えることが出来るようになったからだ。寒ければ厚着をして暖房を入れるし、部屋がくらければ明かりを付ける。目的地に早く到達する必要が有れば、車や飛行機を使う。
とはいえ、環境を変えるのは人間に限ったことではない。鳥は外敵から身を守るために巣を作るし、ビーバーは丸太や泥を集めて巨大なダムと巣を作る。精巧な巣を作って住環境を快適に保つことにかけては、ミツバチだって負けてはいない。環境を自分たちに都合のいいように手なずけるのは、すべての生物に見られる、普遍的な現象ではある。
だが人間の「道具」は、食料や住居だけでなく、コミュニケーションにも移動にも、そのほか生活の隅々にまで密接に関わっている。
ビーバーやミツバチの巣は、生活の場ではある。だが彼らは、食料を栽培はしないし、仲間とのコミュニケーションに道具を使うこともない。
生活の「すべて」が技術に依存しているのは、地球に住む5000万種の中で人間だけである。
つまり、人間という存在は、もはやホモ・サピエンスだけでは成り立っていないのだ。ホモ・サピエンスという生物(遺伝子)とその文化(ミーム)との共生体が、ぼくたち人間なのである。人間とは、二種類の生き物が一緒になった姿なのだ。
ぼくたちの肉体は、ここ数万年間、大きくは変化していない。十万年くらい変わっていないという意見もある。生き物としてのぼくたちは、もはや変化する必要がなくなってしまったのだ。環境が変化したら、「もう一つの生き物」である、文化・技術の方が変化して適応する。公害がひどくなれば、法律を変えて排気ガスに規制をかけ、それに見合った技術を開発して汚染をやわらげる。人間の身体が公害に適応して生き延びていくのではない。これが人間のーホモサピエンスと文化の共生体のー進化のやり方である。
問題は、この文化(道具でも技術でもいい)が、どの程度ぼくたちの支配下にあるか、ということだ。ぼくたちのより快適な生活のために、あるいはもっと端的に生き残るために、と思って適応させている制度や技術は、本当に人間の生存に有利なのだろうか?

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